◆和伝小噺
「古薫の日常」
~赤翅の家~

- 赤翅、今日の晩飯なにー!?

- おかえり、柳とがっくん。今日は鰻の蒲焼だよ。

- やった、俺の大好物!!

- へー。珍しいね! なんかあったの?

- いいや、なんにも~?

- だらしねえ面してんじゃねえよ、気色わりい。

- どうせ、女の子がどうのとかそういう話だろ。

- フフフ、聞きたい?

- 別に聞きたくない!

- そこまで言うなら教えてあげようかな。
実は今日夕飯の買い出しに行った時、団子屋の前で偉いべっぴんさんが男に絡まれてるのに遭遇してね。 
- 聞きたくないって言ったのに勝手に喋り始めたね!

- まあまあ、がく……。
どうせしょうもない話だから、すぐ終わるよ。それで、どうしたの? 
- もちろん、男として放っておくわけにはいかないだろう?
その子を助けてあげたんだ。 
- さすが赤翅くん。優しいね。

- 当たり前のことさ。そしたらその子、大喜びしちゃってね。
「是非助けてくれたお礼をさせてください!」って言うんだよ。 
- へー、礼儀を弁えた良い子だね。

- だからその時俺はこう返したんだ。
「君みたいな綺麗な子に出会えた俺の方こそ御礼を言いたいよ」ってね……。 
- 気色わりい。

- むしろ怖いね!

- そうしたらその子、顔を赤らめるもんだからもう可愛くて可愛くて……。

- あ、もう俺らの話聞こえてないね。

- それで彼女が言うんだ、「是非うちのお店に来てください」って。

- お店?

- 彼女が俺の手を掴んで引っ張っていく姿といったら、もう……。
あの時の胸の高鳴りを皆にも教えてやりたい。 
- どこに連れて行かれたの?

- 決まっているだろう、彼女の家さ。

- はあ!? お前、初対面の女の子の家にあがったのか!?

- まあそういう経験もあるにはあるけど……。
実は彼女の実家が小料理屋をやっていたんだ。 
- ああ、それで「うちのお店」って言ったのか。

- その通り!
「なんでも好きな物を食べてください」なんて言われたんだけど、それはあまりにも悪いだろう?
だから俺はこう言ったんだ。「それなら、君を食べたいな」って。 
- はあ!? お前っ……この、クズ!!
それその子の親の前で言ったのか!? 
- 当たり前だろう。誰が見ていようと関係ない。

- 狂ってやがる……。

- その子の両親、怒らなかった!?

- 父親が般若みたいな顔をして俺を睨んでいたから、結局すぐに店は出たさ。

- あたりめえだろ! こんなクズに大事な娘やれるか!

- けれど、その子店を出た俺を追いかけてきたんだよ。

- えええ!? なんで!?

- 俺に惚れてしまったんじゃないか?

- それで、その子は追いかけてきてどうしたんだい?

- ああ……彼女は笑顔でこう言った。
「今度、是非主人と娘にも会ってくださいね」と……。 
- 主人と娘!? 結婚していたってこと!?

- そう。彼女は人妻だったんだ。

- へー。そんじゃいくらお前が気に入ろうともう無理だね。
はい、この話終わり。さっさと飯に…… 
- 誰が無理と決めた! 俺はまだ諦めていない!

- あぁ?

- あんなに綺麗な人妻を口説くっていうのも案外おもしろそ……

- てい!!

- とう!!

- いってええ!? 何するんだよ!? 今お前ら、本気で俺の頬を殴っただろ!?

- 黙れクズ! 何が人妻を口説くだ! 最低すぎるんだよ、この節操無し!

- 赤翅は今日のご飯無しね! 反対の人~?

- が、がっく~ん。そんな事言わないでよ~。

- てめえはしばらく餓えてろ。

- はい決定。んじゃ、いただきまーす!

- いただきまーす!

- それ作ったの俺なんだけど!? おいおい、無視しないでくれよ~。
あ、白十! お前ならわかってくれるだろ! 
- フフフ、今日は楽しい日だね赤翅くん。

- 楽しい日だねって、そういうことを聞きたいんじゃなくて、おい、おーーーーーーーい!!
今日も、古薫は賑やかです。
~完~
「子どもと大人」
~赤翅の家~

- ただいま~っと。

- 赤翅、遅い! 待ってたんだからな!

- おかえり。

- なんだもう来てたのかお前ら。まだ夕飯の時間じゃないだろう?

- お腹空いたんだもん。
赤翅の家に来れば美味しいご飯が出てくるからさ! ね! 早く! 
- あーわかったわかった! 作るからちょっと待ってろ。

- そういえば赤翅、どこに行ってたの?
買い物にしてはいつもより帰ってくるのが早いね。 
- ああ、それがさあ! せっかく早起きして街に出たっていうのに女の子があんまり居なかったんだ……。

- うわあ、クズだ!

- お前、他にやることないのかよ。

- 女の子を探しに行くって立派な暇つぶしだろう!

- どこが立派だよ! ちょっとは僕と柳を見習えば?

- え~。だって君たちのやってる事といったら、街のお子ちゃま軍団に芸を披露するくらいだろう? 色気もへったくれもないな。

- 違うよ! ちゃんと大人も見てくれる!! 色気ある!!

- フフフ、がっく~ん。そこでムキになっちゃうところがお子ちゃまなんだよ?
そして色気というのは大人がいるだけで良いと思っているなら大間違いだ。 
- うっ………!

- 俺と張り合いたいならもうちょっと大人になってから出直そうな?

- くっそー! 今日の赤翅、いつにも増して腹が立つ! 柳ー!!

- あーはいはい、がくはちょっと落ち着こうね。
赤翅、お前も大人げないからな。 
- そうだよ! 僕のこと子ども扱いするけどさ、逆に赤翅はおじさんだよ!!

- な、おじ…っ、おじさんはないだろう!

- いいや、おじさんだね! 年だって僕と五つも違うし。

- たった五つだ!

- いいや、肌のきめ細やかさだって絶対に僕が勝ってる!

- まあ、そこは一番若い楽埜が勝って当然だよね。

- いやいや、俺のこの肌を見てよ? ちゃんと水も弾くよ?

- 水も弾くとか……そういうところがおじさん臭いんだよ!

- なっ……。

- あ、図星だったんだ!

- 本当だ、珍しく言い返せてないね赤翅。

- ………くっそ……お前ら……!
こうなったら、術で勝負だ! いいな!? 
- 望む所だよ!

- 悪いけど負ける気がしないね。

- ようし……行くぞ!
~その頃の家の外~
(一連の様子を伺っていた雅と白十)

- いや、全員同じくらいのガキだろ。

- それは言わないでおいてあげよう。

- 驚くほどくだらねえ……。

- フフ、今日も楽しそうでいいじゃないか。
もう少し見学させてもらおう。 
- ハァ……腹減ったんだよ、クソ……!
その後、問題児達の争いは数時間続き……
結果怒りを爆発させた雅の刀から逃げまわるはめになったそうです。
~完~
「雅は照れ屋さん」
~雅の家~

- チッ、クソ! 赤翅の野郎、また勝手に俺の家に上がり込みやがったな!
散らかすだけ散らかしやがって……ぶっ殺す……! 
- お邪魔しま~す! 雅くん、居る~!?

- あ?

- あ、やっぱり居た! 今日、刀の練習付き合ってくれるって言ってたよね!

- わかってる。掃除が終わってからな。

- 掃除? ……本当だ。何でこんな散らかってるの?

- 赤翅の野郎が勝手に人の家に入って散らかし放題しやがったんだよ。ったく……!

- …………。

- なんだよ?

- いや、なんだかんだ雅くんって優しいんだなあって思って!

- あ!? なにがだよ!

- だってさあ、普通本当に嫌がってたらなにかしらの方法で赤翅が入れないようにしておくでしょう?
それなのに、何度家を汚されてもいっつも入れるようにしてるよね? 
- べ………別に意識してやってるわけじゃねえよ。

- 嘘だー! 本当に嫌だったら絶対に拒否するよ! それが雅くんでしょう!?

- ま、まあ…………あいつには、毎日飯作ってもらってるっていう借りがあるからよ。

- あはは! やっぱり優しいね~!

- 別に優しいとか、そんなんじゃねえよ!

- ふ~ん? もしかして今照れてる?

- っ……うるせえなクソガキ! 斬られてえのか!

- え、なんで怒るの!? ちょっと、やめて、刀振り回さないで! 危ないって!
照れてるって言われて恥ずかしかったの!? 
- てめえ! ……くそ! ぶった斬ってやる!!

- わーーーーー! だからなんで怒るのってば!!
柳助けてーーーー!
楽埜はその後も顔を真っ赤にした雅に追いかけられるのでした。
~完~
「古薫の太陽」
~古薫~

- おや、柳くんじゃないか。

- 白十!

- こんな朝早くに……何処かに行っていたのかい?

- ああ! ちょっと、向こうの山まで一飛びしてきたんだ!

- フフ、そうか。柳くんはいつも元気で良いね。

- 白十は何してたんだ?

- 眠りが浅くて、早く目が覚めてしまってね。
外の空気を吸いに出てきたというわけさ。 
- ふ~ん。珍しいな。

- ごく稀にあるんだ、こういうこと。

- なにか悩んでいることでもあるとか?

- 悩んでいること……。そうだね、無いといえば嘘になるかもしれないな。
柳くんはそういうのあるのかい? 
- うーん。俺は、悩むって行為を基本的にしないからな~。
悩んでる時間あったら笑って楽しいこと考えてた方が良いし! 
- フフ、柳くんらしいな。
でも、生きていたら一回や二回、真剣に悩まなければいけない時も来るかもしれないよ?
その時も笑っていられるかは、わからないだろう? 
- ううん、俺は大丈夫。

- え?

- たとえどんな問題に直面しても、俺は俺のやり方で絶対に乗り越えるって決めてるんだ。
だから、俺はなにが起こっても大丈夫! 
- ………。

- 白十?

- フフ!

- ん? 何で笑ってるの?

- いや……面白くて。
柳くんに向かって後ろ向きな話をするなんて馬鹿だったよ。
君はそういうのを跳ね飛ばす子だったっていうの、忘れていた……フフフ! 
- な、なんかよくわからないけど………。
白十が笑っているからいいのか……? 
- 君の明るさは太陽みたいだね。
おかげで少し憂鬱だったのが、楽しくなったよ。 
- 本当に!? それならよかった!

- ああ。
さて、もうすぐ赤翅くんが朝食を作り始める時間だね。行こうか。 
- おう! 今日の朝飯は何かな~。

- フフ、君とがっくんは、食べ過ぎに気をつけるんだよ?

- わーかってるって!
~完~
「巫の秘密」
~巫の家 玄関先~

- ん? がく? お前こんなところで何してるの

- や、柳!

- なんだよ、そんな慌てて……

- べべ、べ、べつに!? ちょっと散歩していただけだよ!?

- 嘘つくの下手くそすぎるだろ。
ほら、何してたか言いな。俺にだったらいいだろ? 
- え! えええ……うーん、まあ柳ならいいかな……。
実はね、巫の秘密を暴こうと思って 
- は? 秘密?

- 巫って、いつもどこで何をしているかわからないじゃない?
気づくと居なくなってたり……。僕、巫のこともっとちゃんと知りたいって思ったんだ 
- そりゃあ、俺も巫については知らないことが沢山あるけど……でも一体何を暴こうっていうんだ?

- 巫の琴だよ!

- 琴? 巫がいつも持ってるあの琴?

- そう! あれ、どうやらただの楽器じゃないみたいなんだ!
僕、あの琴から小さな人間が出てくるのを見たんだ! 
- なんだそれ? どうせまた寝ぼけて夢でも見て……

- それが嘘じゃねえんだよ

- 雅! お前いつからそこに……!?

- 最初からだ。……楽埜のクソガキが言ったことは本当だぜ。この間俺も見たんだ。
あの琴が急に光って、中から小せえ人間みたいなのが出てくるのを…… 
- それ………本当なのか?

- この俺がこんなつまんねえ嘘つくように見えるか?

- いやそうだけど……でもいくらなんでも小さな人間っていうのは……
だって、それっていわゆる、人ならざる者ってことだろ? 
- 相手はあの巫だぞ。どんなことが起きようとおかしくねえよ

- そうだよ! 巫は僕たちなんかよりもずっとずっと強い力を使える術師なんだから

- ……うーん。まあ、納得しなくはないけどさ。自分の目で見てみないことにはなあ

- でしょ!? そう思うでしょ!? だから僕は今ここに居るんだよ!
なぜなら、今日は巫があの琴を置いて外出して行ったから! 
- !? ってことは……!

- 真相を確かめる絶好の機会ってことだ

- よーし! 三人居たら何か起きたとしても怖くない! 行こう!

- ちょ、三人って俺も?!

- 当たり前でしょ!

- いや、いくらなんでも勝手に巫の秘密探るっていうのは……

- 柳は気にならないの?

- そりゃなるけど……

- つべこべ言ってねえで、行くぞ

- いやお前はなんで今日はそんな乗り気なんだよ!?
いつもならこういうの絶対に乗ってこないくせに…… 
- ……いや……別に乗り気ってわけじゃ……

- まあまあ! 巫のことが気になるのは皆一緒だってことだよ!

- う……まあ、それは……そうだな

- よし、それじゃ早速行こう! 巫の秘密を今日こそ……!

- おや、皆揃ってどうしたんだ?

- ひっ……! 巫!!

- うわあああああ! 違うんだよごめんなさいごめんなさい!!

- なっ、てめえら、なんで俺を盾にしてんだコラ!!

- ……雅。どうしたんだ?

- いいいいや、べべ、別になんもねえよ!?

- 何もないということはないだろう?
俺の家にお前らが来るなんて、珍しいじゃないか 
- あれだよ! えっと、なんだ、そのー、えー………散歩?

- ほう……散歩、ね

- そそそ、そう! 散歩! 今日は天気がいいからねー!
さ、さーてと! 俺はそろそろ街に行って来ようかな! 
- あ、僕も! 僕もそうしようかな!

- よ、よし、がく! じゃ、一緒に行くか!

- うん、そうしよう! じゃあ雅くん、あとはよろしく!

- はああ!? おい、待てお前ら! おい! ……クソ、行っちまった……

- 柳たちが居なくなるとなにか都合が悪いのかい?

- い、いや、そういうわけじゃねえよ

- 本当に?

- ほ、本当に! つ、つーか、俺もそろそろ行くぞ。邪魔したな

- ……雅

- ! ……な、なんだ

- 人の事情というのは、無理にこじ開けるものでは無いんだよ

- !!!

- まあ、時期が来たらゆっくり教えてやるさ

- …………!
それからしばらくの間、雅は巫と目を合わせる事が出来ないのでした。
~完~
「赤翅の料理教室」
~赤翅の家~

- 赤翅~!!

- 邪魔するよー!!

- なんだなんだお前ら……まだ飯の時間じゃないだろ?

- 知ってるよ。っていうか、だから来たんだ!

- へ? どういうことだよ?

- あのね! 僕と柳、赤翅に料理を習おうと思って!

- は? 料理?

- 俺達も料理が出来る男になりたいんだ!

- そう! なりたい!

- ………いや、なるって言われても……。
いきなりどうしたんだ? 普段は絶対そんなこと言い出さないくせに。 
- いつも作ってもらってばっかりだろ?
自分たちでも料理できるようになったら、赤翅だってもっと楽になるんじゃないかなって思ってさ。 
- お前ら……もしかして俺の事を気遣って……?

- えー違うよ! 赤翅は女の子と遊んでると帰ってくるの遅いから、そういう時にご飯出来上がるの待ってなくていいようにって柳が……。

- こら、がく! それは言うなって約束……!

- あれ!? 言っちゃ駄目なんだっけ!? ごめん!!

- ごめんじゃないよ……ったくお前は……!!

- くそ……少しでも感動した俺が馬鹿だった……!

- う、嘘だよ嘘! 赤翅、今のは気にしないで!

- 今更そんなの信用できるか!!
まあ……そうだな……どんな理由であれ、料理ができる奴が増えるのはいいことだよ。
仕方ないから教えてやる。感謝しろよ? 
- やったー! そうこなくっちゃ!

- その代わり、ちゃんとやらなかった奴は今日の晩飯抜きにするからな。

- 大丈夫だって! 俺も、がくも、ちゃんとやるよ!

- よし。なら……そうだな、最初だし味噌汁でも作ってみようか。

- わかった。んじゃ、とりあえず俺何すればいい?

- うーん……っていうか、そもそも柳とがっくんって包丁使ったことある?

- ないね。

- 僕もー!

- そこからかよ……。はあ、じゃあとりあえず……まず柳。
そこの葱を切ってくれるか? 包丁の使い方は、こうだ。
右手で包丁を持って、左手は怪我しないように拳骨の形にして、野菜を押さえる。 
- わかった、やってみる!

- 僕は何をすればいい?

- そうだなあ。じゃあ、がっくんはまず豆腐を切ってくれる?
そこの桶に入っているから。 
- はーい! よいしょっと……って、あ、潰れた。

- あー!? 何してるんだよ!?

- だってこんなに柔らかいんだよ!?
どうやって持ったって崩れちゃうよ!! 
- それを優しく崩さないように気をつけるんだよ!

- 痛ってええ!

- !? どうした!!

- 人差し指、切った!!

- はあ?! 怪我しないように拳骨の形にしろって言っただろ!?

- だって切りにくかったからさ……。
ちょっと指出した瞬間、一気にザクッといったんだよ……。 
- あー、もう……ほら、お前はとりあえず傷口を洗って布かなにかで押さえておけ!

- はいはい……。

- あーーーー!!

- 今度は何だよ!!

- 豆腐、残りの分も全部崩れちゃったー! ごめんね、赤翅。

- なっ、全部って、おま………。
どうして一回失敗したのに、勝手にまた……。 
- 二回目だったらできるかなーって思って。
でも無理だったよ、ごめん! 
- うーん、やっぱり料理って難しいな。

- 本当だねー。やっぱ僕たちには向いてないのかな?
それにさ、よく考えてみるとやっぱり食べる側が楽だよね! 
- 確かにそうだな。赤翅の飯は、悔しいけどすっげえ美味いし。

- そうそう! 生活態度は、クズそのものだけどね!

- だな!

- …………お前ら………。

- ん?

- どうした?

- 二人まとめてさっさと帰れーーーーーー!!!!
この日、柳と楽埜は激怒した赤翅に本当に夕飯抜きにされましたとさ。
~完~
「似た者同士」
~柳の家~

- ねえ柳、見てて! 次は犬から鳥に化けてみせるから!

- わかったわかった。

- どうしてそんなに退屈そうにしてるんだよー!!

- いや、だって……お前さっきから何時間やりゃ気が済むんだよ……。

- 僕の術面白くないの!?

- 面白いけど、毎日のように見てるしな……。

- えー……だったら柳が面白いことしてよ!

- 面白いこと? そうだなあ……。

- おいこら、クソガキ共!!!!

- うわああぁ!? び、びっくりした……!
雅くん、どうしたの……!? 
- 俺の部屋を荒らしたの、てめえらか!!

- はぁ……? 荒らしてないけど。

- 僕たちずっとここに居たよ!

- チッ……じゃあ赤翅の野郎か。あのクズ……!

- 一体なんだっていうんだよ……。

- そうだよ! 入ってくるなり刀向けるなんてひどいよ!

- 帰ってきたら俺の部屋がとんでもねえ有様になってたんだから仕方ねえだろ!
チッ……テメェらクソガキ共の仕業だと思ったのによ……。 
- だから違うってばー!

- それより、聞いてりゃさっきからクソガキクソガキって……。
おい、雅! お前と俺は同い年だからな!! 
- ハッ、んなことは昔から知ってんだよ!!

- だったらなんでクソガキって呼ぶんだよ!!

- 確かに……どうして柳までクソガキなの?
僕は雅くんより年下だからわかるけど……。 
- どう見たってガキだろ。いつも町の鼻垂れ小僧達と戯れてるじゃねえか。

- はぁ!? 俺は子どもたちに芸を見せてるだけだ!
お前なんて人と関わらないで毎日部屋に籠もってるくせに! 
- それのどこが悪いってんだ!!

- そんな引き籠もり野郎に、文句言われる筋合いねえよ!

- あぁ!? テメェ、もういっぺん言ってみやがれ!!

- 何度でも言ってやるよ! 引き籠もりの根暗野郎!

- んの野郎……! ぶった斬ってやる!!

- やれるもんならやってみろよ!!

- あ~もう……また始まっちゃった……!

- おい柳~、ちょっと夕飯の買い出しに……って。

- クソガキ!!

- 引き籠もり!!

- なんだなんだ、また喧嘩か?

- うん。いつものだよ。

- ふふ、ふたりとも相変わらずお子ちゃまだな~。
顔合わせりゃ言い争いばっかして。 

- 誰がお子ちゃまだって!?

- おー、息ぴったり。仲いいなぁ。


- よくねえよ!!

- いや、ぴったりだよ!

- 喧嘩するほど仲がいいって本当だな。

- ふざけたこと抜かしてんじゃねえよ! 誰がこんなクソガキと!

- 俺だってこんな根暗と仲がいいなんて思ったことない!

- はいはい、わかったわかった。
で? そもそもなんで喧嘩になったんだ? 
- え、それは。

- ん?


- てめえだ、赤翅!!!!

- ……うーん。やっぱり仲いいと思うんだよね。

- ……だな。
雅と柳は喧嘩するほど仲が良い……(?)のでした。
~完~
「全員揃うと賑やかです」
~赤翅の家~

- 今日の夕飯は、鰻の蒲焼だぞ!


- やったーーーーーー!!

- チッ、うるせえな……ガキみてえに騒ぎやがって……。

- いいじゃないか、微笑ましいよ。

- フフ、そうだよ。可愛らしいじゃないか。

- お前らはガキ共に甘すぎるんだよ……!

- そんなことないさ。

- あ、ちなみに、今日の味付けには自信があるからよろしく。

- へー! まあ、いっつも美味しいけどな。いっただきまーす!!

- んむ、ぐ……!

- こらこら、楽埜。そんなに慌てて食べなくても誰も取りやしないさ。

- ほんほは!ほいひい!(ほんとだ!おいしい!)

- フフ、何を言っているかわからないよ、がっくん。

- すっげえ美味い! 赤翅、料理の腕あがった?!

- へっへーん。だろ~?

- 本当だ、今日の蒲焼すごく美味しいね。さすが赤翅くん。

- ああ、美味しい。おや……雅は食べないのか?

- フン、たかが飯が美味いくらいで……。

- あっれれ~? じゃあ雅は食べなくてもいいんだぞ?

- 食いたくないなら、食うなよ。

- ……るせえ! 食えばいいんだろ、食えば!

- あ、食べた。

- 最初からおとなしく食えばいいのに……。

- …………。

- どうだ、美味いだろ~!

- ……ま、まあ、クズ野郎にしてはな。

- はいはい。まったく素直じゃないな~。

- フフ、美味しいってことさ。

- 素直じゃないのも、雅くんのいいところだからね。

- 素直じゃないのにいいところなの?

- うん。そうだよ。

- どうして?

- それは……もうちょっとがっくんが大人になったらわかるかな。

- 素直な方が絶対にいいのに!
そもそも、こんな鬼みたいな顔して飯食う奴、飯に失礼だろ! 
- 誰が鬼だって? あ?

- お前だよ!

- あーはいはい、飯の時くらい喧嘩しないで仲良くしてくれよ。

- 赤翅くん、だんだん母親みたいになってきたね。

- それ僕も思ってた~!

- なっ…母親!?
やめてくれよ、俺はお前らの世話をするつもりなんてこれっぽっちもないからな! 
- とかなんとか言って毎日ご飯を作ってくれてるけどね。

- だとしても母親はないだろ!!

- はいはい。これからもよろしくね、お母さん。

- 白十、お前なぁ~!!

- あーあ。こっちもこっちで喧嘩が始まっちゃった。

- …………フフ。

- ん~? 巫、どうしたの? にこにこしてるね。

- いや……今日も幸せだなぁと、思っただけさ。

- 幸せ? これが?

- ……ああ、幸せだよ。とってもね。
~6人揃うと、古薫はいつも賑やかです~
「白十の寝起き」
~白十の家~

- 朝だぞ~! ほら、起きろ! 白十!

- う、ん……。なんで……赤翅くんが……僕の家に……。

- 今日の起こし当番が俺だからだ。
というか、今日扉に鍵かかってなかったぞ。閉め忘れなんてお前にしては珍しいな。 
- 閉め……忘れ……僕、が……。

- ま、物騒だし気をつけろよ。はい、んじゃさっさと起きてくれ。朝飯だ。

- ……いやだよ、まだ眠い……。おやすみなさい……。

- おいおい、二度寝するなよ! お前、本当に朝だけはべらぼうに弱いな……。

- 僕は、夜行性なんだ……ご飯は今いらないから。
放っておいて……。 
- だーめーだ! 朝飯は皆で食べる。それが巫の決めた古薫の掟の一つだ。

- …………。

- しーらーとー!!!

- ………っ! ああもう、うるさいんだよ!!

- うおっ……!? し、白十?

- 何? 人の家までづかづかと入ってきて大声をあげて君は何が楽しいんだい、赤翅くん。
いつもいつも女の子ばっかり追いかけている君にはわからないかもしれないけど、
僕は君みたいに能天気な頭をしていないからひどく疲れているんだよ。
わかったら寝かせてくれないかな。
ねえ? 
- …………す、すす、す、すいませんでした……。

- 謝罪なんてどうでもいいよ。
さっさと出ていってくれないか。僕は眠いんだ。
このまま出ていかないっていうなら、今にも逃げ出したくなるような恐怖を与えてあげようか? 
- …………。
~柳の家~

- お、赤翅おかえり。白十のやつ起きた?

- …………。

- ん? どうしたの赤翅。

- 俺は………。

- ………あ? なんだよ。

- 俺はもう二度とあいつを起こしに行くのは御免だああああ!!!

- あっ、おい、赤翅!!! 待て、どこ行くんだよ!!

- なんだあいつ。頭おかしくなったんじゃねえの。

- ま、おかしいのはいつものことだよ~。ご飯先食べちゃおう。

- だな! いっただっきま~す!
白十を怒らせると、とっても恐ろしいことになります。
「女だったらなんでもいい」
~赤翅の家~

- 今日は珍しくみんな出かけてることだし……。
昼間っからひとりで一杯やっちゃおうかな~。 
- あー! 赤翅、こんな明るいうちからお酒飲んでる!

- うおお!? びっくりした……! おいおい、がっくん……驚かせないでくれよ……。
というより一体どうやって入ってきたんだ? 物音一つしなかったぞ? 
- 蝶に化けて扉の隙間から入ってきたんだよ~。

- なんでそんな、妙な真似を……。普通に入ってくればいいだろ?

- だって、赤翅が家で何してるのか気になっちゃって。女の子でも連れ込んでるんじゃないかってさ。

- あのなあ、俺はこの家に女の子を連れてきたことは一度も……あ、いや、一度や二度はあるか……。

- うわあ、やっぱりクズだ~。

- おいおい……俺はこれでも大人なんだ。そういう事があったっておかしくないだろ。
ましてや女の子と二人きりになったら、必然的にそうなるだろ! 
- そんなことないよ! 好きな人となら、一緒に街を歩くだけでも楽しいよ!

- ふふっ、がっく~ん。男と女は人前じゃ出来ないことが沢山あるんだよ~?

- で、出来ないことってなに……。

- それは言えないな~。がっくんにはまだ早い、大人の話さ。

- む……っ! 僕だってもう大人だもん!

- ほお~? だったら俺が言おうとしたこと、わかってるんじゃないのか~?

- そ、それは……その……!

- え~? なんだ、がっくん本当はわかってたんだ?
あーあ、ちょっとカマかけたつもりだったのに。がっくんも隅に置けないね~。 
- っ……今日の赤翅、すごく腹が立つ……!!

- ふふ。それはがっくんがお子ちゃまだから、すぐ苛々しちゃうんじゃないのか?

- さっきから聞いてれば僕をすぐ子ども扱いして……!

- 本当に子どもなんだから仕方ないだろ~。

- むっ……!! み、見てなよ! 今僕が赤翅をぎゃふんと言わせてやる!
~美人な大人の女性の姿に化ける楽埜~

- ほら、これでどうだ!

- う……お、女の子……!
い、いや! たしかにとても美しいんだけど……でも中身はがっくんだしなぁ……?
やっぱり本物の女の子じゃないと俺は……。 
- とか言って何鼻の下伸ばしてるんだよ!! このクズ!

- の、伸ばしてなんかないさ!

- 伸びてるだろ! ったく、どの口が言ってるんだか。

- ま、まあ、目の保養にはなるしな~?

- なるしな~じゃないよ!!
……はあ、なんか赤翅と話してると疲れちゃった……。もう、術解くね。 
- いや駄目だちょっと待て!!

- ……なに?

- ね、ねえがっくん、どうせならさ。

- うん。

- その~、術解く前に……。

- うん、なに?

- その着物の胸元、もうちょっとはだけさせてこっちに見せてくれない?
あ、ついでに谷間も寄せてくれると嬉しいな~。 
- …………。
この直後、赤翅は楽埜にボコボコにされましたとさ……。
~完~
「大人組の癒やし」
~柳の家・縁側~

- うわ、空気が冷たい……。もうすっかり秋になったな。
外に出るのが億劫になる……。 
- 柳~! 遊びに行こう~!

- おう。がくはいつも元気だな~。さすが子どもは風の子……。

- む~! 子どもじゃないってば!

- はいはい。
んで遊びに行くって話だけど、さすがにこんな寒いし、今日外に出るのは気が乗らないな~。

- え~! いいじゃないか、行こうよ~!

- んー。街に出るにも俺の神足通で行くんだろ?
この季節になると、飛ぶのも一苦労なんだよ……。とにかく寒い。 
- 街の子たちが、こんな柳見たらがっかりするよ?
いつも頼りになる柳が、寒いから外に出たくないなんて……かっこ悪すぎる。 
- あのな……俺だって人間なんだぞ。

- む~。つまんないよ~。あ~もう外遊びに行きたい~!
行きたい行きたい行きたい行きたい~! 
- がーくー……我儘言うなって。

- やだやだやだ! 遊びに行きたい~!

- あーもうわかったよ……!
じゃあ、古薫の中で遊ぶ! それならいいだろ? 
- え~。もう仕方ないなぁ。百歩譲ってそれでいいよ。

- なんでお前が上から物言ってんだよ……。別にいいけどさ……。
はい。んじゃ、なにしたいんだ? 
- 面白いことしたい!

- 面白いこと? ん~……古薫で出来る面白いことか……。

- 赤翅を懲らしめる!

- 理由もなしに懲らしめるのもな~。まあ、過去を辿って探せば腐るほどあるけど……。

- じゃあ、雅くんと決闘!

- それは遊びじゃ済まなくなるから駄目。

- ん~、じゃあ白十くんとなんかする?

- あいつ、今日は絶対夕方まで寝てる。

- も~! じゃあ何もすることないじゃん!

- そうだな……ここだと何もすることがないな……。

- でしょ!? やっぱり街に出なきゃ!

- それは嫌だ。

- あぁぁなんでだよ~!!!

- 寒いからって言ってるだろ。

- わかった、じゃあ僕があったかい毛皮の動物に化けてあげるから!
それで一緒に街へ飛んでいけばいいでしょ! これで一件落着! 
- ん? おぉそっか! がく、お前頭いいな!?
それだったら冬になっても、街に行ける!! 
- へっへ~ん、でしょでしょ~!

- すごいな、がく! お前、天才かもしれないな!

- 本当に~!? やった~!!

- よし、じゃあ早速行こうぜ!

- わーい! しゅっぱーつ!!
~飛び立っていく二人~

- …………。

- …………。

- なあ、今の見てた?

- うん、見てた。

- なんだ……この、父親のような心境は。

- フフ、邪念が取り除かれた気はするね。

- 柳も楽埜と精神年齢が変わらないな……。
っつってもあいつら、あれで結構いい歳なんだけどなぁ……。 
- まあいいんじゃない? あの子達はあのままで。
大人になったらつまらないよ。 
- 確かにな。
あいつらには、いつまでもあのままで居てほしいかもな~。 
- フフ、可愛いよね。柳くんと、がっくん。

- そうなんだよ~。
俺が作った料理も美味そうに平らげる所とか、本当子どもだよな~……。 
- 赤翅くん、すっかり母親の境地だね。

- いやそこはせめて父親にしてくれよ~!!

- 親の立ち位置は否定しないんだね、フフ。
日頃から、子ども二人に心癒される大人組なのでした。
~完~
「男会議」
~柳の家・夕飯時~

- ん~! この焼き魚最高! おいひ~!

- こーら、がっくん。もっと落ち着いて食べろって。食い物は逃げていかないぞ。

- ふぁ~い。ひょひぇんひゃひゃ~い!
(は~い。ごめんなさ~い!) 
- ッ、クソガキ! 口に入れたまま喋んな、汚え! 飛んできただろ!

- あれ、そうだった? ごめんごめん。

- チッ……クソ!

- 悪気があってやったわけじゃないんだから、許してやれよ。な、がく?

- う、うん……ごめんね、雅くん。わざとじゃないからね。

- わざとだったらこの場で斬り殺してやる。

- あーあ……殺すだの斬るだの血なまぐさいね~。
やっぱり男だけって、むさ苦しいよな~……。 
- そう? 僕はわりと、この環境楽しいけど。

- 僕も! すーっごく楽しい!

- 俺はどうせなら美女に囲まれて美味い飯を食いたいよ……。

- フフ、如何にも赤翅くんらしい意見だね。

- お前らだって、かわいい女の子が隣に居たほうが嬉しいだろ?

- 俺は飯が食えりゃなんだっていい。

- 俺も。赤翅みたく常に女のことばっか考えてないし。

- 赤翅は何をするにもまず「女の子」が来るもんね~。

- 赤翅くんらしくていいじゃないか。
それに僕も女性は好きだよ。男にはない可憐さがあるもの。 
- さすが白十! わかってるな~!
それに比べて、残りの三人は女のおの字も無いのばっか……。 
- そ、そんなこと無いもん!

- 俺達だって、別に……。な、なあ雅!

- な……俺に振るなよ……!

- おいおい、無理しなくてもいいんだぞ~?

- 無理なんてしてないよ! 僕達だってその気になれば……!

- まあ確かに、柳くんたちから女性に関する話を聞いたこと無いね。
皆の好みとか……。フフ、少し興味あるな。 
- こ、好み!? うーん……別に俺は特に無いけど……。

- へえ。ほんとうに?

- いや……その……笑顔がかわいけりゃそれ以外は……!
あ~でも、笑わない子はちょっと……いつもにこっとしていて、優しそうで……。
ついでに言うなら美味しいご飯を作ってくれて、毎朝起こしてくれて……。 
- おい、死ぬほどあるじゃねえか。

- 結構甘えんぼなんだね、柳くん。

- そ、そうかな!? そんなことはないと思うけど……!
って、なんか小っ恥ずかしくなってきた! 俺の話は終わり! 
- はは、照れ屋だな~柳は。じゃあ次はがっくん。

- え、僕~? うーん……一緒に居て楽しい子がいいなぁとは思うけど……。

- がくらしいな。

- お互いに楽しさを与え合える関係がいいな!

- がっくんらしい、か~わいい回答をありがとうな。

- む、また子ども扱いしたな!

- はいはい、喧嘩しない。で、雅くんは? 好みの女性。

- そ、そんなもんねえよ。

- またまた~。ひとつやふたつはあるだろ~。

- ね、ねえっつってんだろ!

- ほんとうに?

- 当たり前だ!

- ふうん。じゃあちょっと失礼。
~雅に触れて、他心通の術で心を読み取る白十~

- へえ。物静かな子ね。

- おおおおい!!? 何しやがんだてめえ!!!

- 雅くんが自分で言わないから代わりに心を覗いてあげたんだよ。

- てめえ、人の心ん中勝手に……! 殺すぞ!!

- 雅は大人しいのが好きなのか。

- 案外普通だったな。

- ね、面白くな~い!

- うるせえ黙れ! 好き勝手に批評すんな!

- フフ。顔が真っ赤だよ、雅くん。

- おお、本当だ。

- ~~~~っ!! もう寝る!

- あ、行っちゃった。

- くくっ、いいもんが見れたな。

- 耳まで赤かったな、あいつ……。

- 雅くんらしくていいじゃないか。

- っていうかさ、白十は?

- え? 僕?

- そうだよ、白十くんは? ちなみに赤翅のは興味ない。

- どうしてだよ!

- お前は「全部」好みだろ。

- う………。

- 否定しないんだね、さすが赤翅!

- い、いやまあ一応理想はあるけどな……?

- へえ、そうなんだ。知らなかったな。

- そりゃ俺だって、基本的にはおしとやかな女の子が好きだよ。
ん? あ……でも、気の強い女の子も悪くないな~……。 
- だから。お前はなんでもいいんだろ。

- まあ……物は言いようってことだ!

- うわあ、クズだね~!

- フフ。ここまでぶれない赤翅くんは、逆に素晴らしいと思うよ。

- 白十は赤翅に甘いな~。あ、っていうかそれで? 白十の好みは?

- 僕? 僕は……そうだな。思いやりや気遣いの出来る女性は良いなと思うけど……。

- けど?

- 一番好きなのは、轉がされやすい人……かな?

- …………。

- …………。

- …………。

- ん? どうしたんだい? なんで皆黙って……って、あれ、ちょっと待って!
うーん……どうして、立ち去ってしまっんだ?
僕は何かおかしなことを言っただろうか……。
~完~
「とある冬の朝」
~早朝・赤翅の家~

- なんだなんだ……朝からやけに寒いと思ったら、雪か……。

- 赤翅、おはよう!

- おー柳。おはようさん。あと少ししたら飯の用意するから、待っててくれ。

- うん。というか、起きた瞬間すげえ寒いと思ったら、雪……。

- ああ、困ったもんだよ。今日は町へ出ようと思ってたのに……。

- 夕飯の買い出しか?

- いや、知り合いの女の子達に挨拶回りでもしようかなって。

- またお前……。少し生活を改める気はないのかよ。

- 嫌だね。俺から女の子を取ったら何が残るっていうのさ。すっからかんになっちまうぞ?

- 自分で言うなよ。

- 俺はどんな時でも女の子と居たいんだよ。ま、さすがにこの雪じゃ今日は無理かもしれないけどな~。

- はいはい、勝手にして。にしても雪か……冬って感じがするね。

- そうだな。ついこの間まで嫌になるほど暑いと思ってたのに……。
古薫に暮らしはじめてからあっという間に時が過ぎていくよ。 
- 俺も一緒。
昔はあんなに一日一日が長く感じたのにな……不思議だよ。なんでなんだろうな。 
- ……俺、どうしてか分かるかもしれない。

- え、なんだよ?

- 多分さ、毎日が楽しいからだよ。

- 楽しいから……?

- 俺も柳も、他の奴らもきっと、古薫にやって来るまでは心から楽しいと思える毎日を過ごしていなかったはずだ。
術師である俺たちは人よりも弊害があるからな。
もちろん、古薫で暮らしはじめてからも、最初はうまくいかないことばかりだったが……。 
- そうだね。俺と雅なんか顔を合わせるたび喧嘩ばっかりで……。

- そうだったな。俺もはじめは、お前らのことなんて興味すらなかったよ。
けど、過ごしていくうち、各々が互いの存在を認めあって行った。気づいた時には大切な里の仲間になっていて……。
そんなお前らと過ごしている毎日が、いつしか自分にとって一番楽しい時間になっていたってわけだ。 
- ……赤翅にしては良いことを言うね。

- してはってなんだよ!
まあ、とにかく! そうやって大事な仲間と過ごしていく毎日は時間を忘れるくらいに楽しいってことさ。
だからあっという間に日が過ぎていくように感じるんだと思うぞ、俺は。 
- 確かにな……うん、その通りかもしれないね。

- ここは俺たちにとって大切な居場所ってことさ。

- ねえ……今俺の目の前に居るのって本当に赤翅?
お前がそういう事言うと、なんか落ち着かない……。 
- ま、こんな事言ってても、俺が一番楽しいのは女の子と居るときなんだけどね。

- ……ああ、いつも通りだ。うん、やっぱり赤翅はクズで居てくれた方が安心する。

- おま……本当に失礼な奴だな!

- ははは! 本当のことだろ!

- よし決まり。柳は今日の朝飯、抜きな。

- はああ!? なんでだよ!

- 俺を怒らせると飯が食えなくなるぞ~? さ~どうする?

- わ、わかった謝るって。

- いやぁでもな~。最近柳もがっくんも、俺に対しての扱いが雑だからな~。

- あっ、ちょっとおい、逃げるな! 待てよ、赤翅~~!!
~完~
「特別な想いを」
〜古薫〜

- さて……皆集まったな。

- 巫、急に全員集めてどうしたんだ?

- 巫が招集をかけるなんて珍しいな。

- なにあったんですか?

- 今回が今年最後の和伝小噺だからね。
全員居た方が良いだろう? 
- え!? そうだったっけ!?

- 月日が過ぎていくのはあっという間だね。

- で、全員で何しようってんだよ。

- 締め括りだからね。
たまには皆でお嬢さんに対して気持ちを伝えるというのはどうだろう? 
- あぁ!? ふ、ふざけんな! 誰がそんな小っ恥ずかしいこと……!

- それいいな! 中々無い機会だし、丁度いいんじゃないか?

- そうだね! 良い機会かも!

- なっ!? クソッ……なんでお前ら乗り気なんだよ……!

- フフ。雅くん、もしかして恥ずかしいのかい?

- わ〜雅くん恥ずかしいんだ! 耳まで真っ赤だもん!

- るせえ!! やりゃあいいんだろ、やりゃあ!!

- それでは、雅。お前から頼むよ。

- っ!!?

- やると言ったのは雅だろう?

- 〜〜〜〜っ!! わかったよ!!
あー……えーと、その……あれだ……。お、お前と出会えて、よかった。
まあ、これからもよろしく頼むぜ……。 
- なあ、照れすぎじゃない?

- ククッ、見てるこっちが恥ずかしくなってくるな〜。

- あはは! 雅くん首まで真っ赤だね!

- なんの拷問だこれ……!! ほら、早くお前らもやれよ!

- じゃ、次は俺が行こうかな〜。
お嬢さん、君が共に過ごしてくれる日々は俺にとってかけがえのないものになっているよ。
君は、俺のとても大切な人だよ。これからも、ずっと側に居てね。 
- フフ、赤翅くんは一切物怖じないね。

- そりゃあ、こなしてきた数が違うからな〜。

- 自慢できるような事かよ……。

- ね、なんか厭らしさを感じる〜!

- まあまあ、赤翅らしいじゃないか。
俺は気に入ったよ。 
- じゃあ、次は僕が行くよ。
さて、お嬢さん。君はとても可愛らしい人だ。でもね、ただ可愛らしいだけじゃない。
僕の興味を唆るそんな素質を持っている……。
多少のことでは折れないその真っ直ぐな心は、とても素晴らしい。
だからこれからも、僕を楽しませてね? 
- なあ……最後、鳥肌が立った……。

- 俺も……。

- え〜? フフ、どうしてだろうね?

- よくわからないが……どす黒い何かが出てきてたような……。

- き、気のせいだよきっと! ね、巫!

- ……そういうことにしておこうか。

- ありがとう、巫さん。さあ、次は柳くんとがっくんだね。

- よし、じゃあ俺も伝えるかな〜。
あんたには伝えたい事がありすぎるんだけど……。
でもやっぱり、あんたと出会って、俺の毎日は前よりもっと楽しくなったよ。
今となっちゃ、あんたが居ない日々なんて考えられないくらいだ。
これからも俺があんたを笑顔にさせるって約束する!
だから安心して俺についてきてよ。 
- ふむ……柳らしい真っ直ぐな言葉だな。

- へへ!

- フン、気取りやがって……。

- なんだよ、その言い方。お前よりはマシだっただろ!

- あーはいはい、こんな時に喧嘩はやめてくれよ〜?


- ……フン!

- さて……残すところは楽埜かな?

- がっくん、君も伝えるんだ。

- え……ぼ、僕?
うーん……何を話したらいいのか、わからないな……。
けど、あんたと居ると毎日新しい発見があって、すごく楽しいんだ。
僕のことも知ってほしいし、あんたのことももっと知りたい。
もっとあんたの色んな表情が見たいんだ!
だからこれからも、僕が新しい世界を見せ続けてあげるね! 
- フフ、楽埜は変わらないね。良いことだ。

- だって、こんな事しか考えつかないもん……。
変だったかな? 
- そんなことないさ。
きっとお嬢さんにもお前の気持ちは伝わっているよ。 
- へへ、そうかな。だといいんだけど……!

- さて……これで全員済んだかな。
それじゃあ終わりに……。 
- ちょーっと待った。巫。お前が残ってるだろ。

- そうですよ、巫さん。締め括りはやっぱり、里の長である貴方でしょう。

- いや、俺は……。

- 全員やるって言ったのは巫だろ!

- そうだよ! 一人だけやらないなんてずるいよー!

- 諦めろ巫。

- はは、そういうことだ!

- 巫さん、さあどうぞ?

- ………ふう、仕方ないな。
〜術を使用して姿を晦ます巫〜

- なっ……! あいつ、消えた……!?

- ど、どこ行ったんだ!?

- どこにも居ないよ!!

- な……あいつ、まさか最初からそのつもりで……!?

- 成程。僕達、どうやらしてやられたようだね。

- そういうことか……。
やれやれ、やっぱり巫には敵わないな〜……。 
- まあいいんじゃない? 秘密主義の巫さんらしいよ。

- チッ、腑に落ちねえ……。

- 巫のことだからどうせ探しても見つからないだろうし……。

- 僕達だけ恥ずかしい思いしただけってこと!?

- そういうことだな。

- うわぁ、鬼だぁ……!

- 仕方ないね。
さあ、ここに居ても仕方ないしそろそろお開きにしようか? 
- だね。一気に腹減ってきたし……。

- ……俺も。

- 僕も〜! 赤翅、ご飯!

- あ〜はいはい。ったく、いつも通りに戻っちまったな……。
まぁ、仕方ないから飯にするか……。
ほら、行くぞ〜。 
- フフ、よろしくね赤翅くん。
~完~
